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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8431号 判決 1972年8月30日

原告 東陽企業株式会社

右訴訟代理人弁護士 宮崎繁樹

被告 シヤルム商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 井上忠己

右訴訟復代理人弁護士 横山茂晴

主文

1.原告か別紙目録記載の建物のうち二階二九七・五二平方メートル及びこれに付属する階段ならびに三階四九・五八平方メートルにつき賃借権を有することを確認する。

2.被告は金二〇〇〇万円と引換に原告に対し前項の建物部分の引渡をせよ。

3.原告のその余の請求を棄却する。

4.訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告の主たる請求)

「1原告が別紙目録記載の建物のうち二階二九七・五二平方メートル及びこれに付属する階段ならびに三階四九・五八平方メートルにつき、存続期間昭和四九年一月末日まで、賃料一カ月金四五万円、賃料支払時期毎月末日の内容の賃借権を有することを確認する。

2被告は金二〇〇〇万円と引換に原告に対し前項の建物部分の引渡をし、かつ別紙目録記載の建物の完成の日から右建物部分の引渡ずみに至るまで一日金二万五一六七円の割合による金員の支払をせよ。

3被告は、右建物部分を原告に引渡すことができないときは、原告に対し金三五五〇万円の支払をせよ。

4訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決ならびに右第二、第三項について仮執行の宣言を求める。

(原告の予備的請求)

「1被告は原告に対し金三五五〇万円の支払をせよ。

2訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決ならびに右第一項について仮執行の宣言を求める。

(被告の申立)

「1原告の請求を棄却する。

2訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

(原告主張の請求原因)

一、原告は昭和三四年一月二八日被告から別紙目録記載の建物(以下本件建物という)の敷地上にもとあった東京都中央区銀座五丁目四番地二四、二五所在、(一)家屋番号同町五番二八、木造鉄板葺二階建店舗一棟、床面積登記簿上四一九、〇七平方メートル実測二九〇・九〇平方メートル、(二)家屋番号同町五番四一、木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗一棟、床面積一四八・七六平方メートル(以下右二棟の建物を旧建物という)の二階二九七・五二平方メートル及びこれに付属する階段ならびに三階四九・五八平方メートル(以下旧建物部分という)を左の約定により賃借する契約をした。

(1)期間、昭和三四年二月一日から五年間。

(2)賃料、一カ月三〇万円、毎月末日持参払。

(3)敷金、二〇〇〇万円

(4)原告は第三者に賃借権を譲渡し又に賃借建物を転貸することができる。ただし原告は譲渡金額の一割を被告に支払う。

(5)被告が期間満了後建物を鉄筋コンクリート造りの本建築としたときは、その建物のうちの現在の建物の賃貸部分の位置及び床面積に相当する部分を原告に賃貸する。

二、そして、原告は敷金二〇〇〇万円を支払って被告から右旧建物部分の引渡を受け、同所で「クラブ星座」を経営し、その後賃貸借契約は更新され、賃料は合意の上昭和四四年一月分から一カ月四五万円に増額された。

三、ところが、昭和四四年四月一三日右旧建物部分の階下にある被告経営の喫茶店「モナリザ」の事務所兼調理場付近から出火し、二、三階にも延焼し、原告が賃借中の旧建物部分は右火災ならびに消火による冠水によって使用困難となった。

四、しかるに被告は右旧建物を修復せず、同年五、六月頃鉄筋コンクリート造りに改築する計画をたて、その後旧建物を取壊して本件建物の建築に着手した。

五、ところで、前記賃貸借契約の(5)の約定によれは、原告は本件建物のうち旧建物部分に相当する主文第一項記載の部分(以下本件建物部分という)について、存続期間を昭和四九年一月末日までとし、賃料一ヵ月四五万円毎月末日払の賃借権を有するものである。しかるに被告はこれを争うので、原告が右賃借権を有することの確認を求め、かつ、被告に対し敷金二〇〇〇万円の支払と引換に本件建物部分の引渡を求め、更に、原告が旧建物部分において行った営業の昭和四三年四月から昭和四四年四月までの純収入は一日平均二万五一六七円であって、原告が本件建物部分で同一の営業をすれば同様の収益が得られるから、被告に対し本件建物の完成の日から本件建物部分の引渡ずみに至るまで一日二万五一六七円の収益に相当する遅延損害金の支払を求める。また、本件建物部分の賃借権の価格は少なくとも五五五〇万円を下らないので、被告が本件建物部分を原告に引渡すことができないときは、被告はこれに相当する損害を蒙るので、被告に対し右引渡不能の場合の代償請求として右損害金のうち三五五〇万円の支払を求める。

六、また、前記賃貸借契約の(5)の約定により、被告が旧建物を鉄筋コンクリート造りの本建築としたときは、被告はその建物のうちの現在の建物の賃貸部分の位置及び床面積に相当する部分を原告に賃貸する義務があり、原告はこれを賃借する権利があるのであるが、仮に旧建物の滅失により旧建物部分の賃貸借契約が終了し原被告間の右権利義務も消滅したとすれば、被告は右義務を免れたことにより法律上の原因なくして少なくとも五五五〇万円の本件建物部分の賃借権の価格相当の利益を得、原告は右権利を喪失したことによりこれに相当する損失を受けたことになるから、予備的請求として被告に対し右利得のうち三五五〇万円の返還を求める。

(被告の答弁ならびに抗弁)

一、原告主張の請求原因一の事実中、(5)の約定が存した事実は否認する。その他の事実は認める。

二、同二の事実は認める。

三、同三の事実中、出火場所の点は否認する。その他の事実は認める。

四、同四の事実は認める。

五、同五及び六の事実はすべて争う。

六、旧建物は原告主張の火災により焼失したので、旧建物部分の賃貸借契約は目的物の滅失により終了した。なお、被告は昭和四四年九月二〇日原告に対し敷金二〇〇〇万円を返還した。よって原告の請求は理由がない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一の事実は(5)の約定の存した点を除いて当事者間に争いがなく、また同二の事実も当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第一号証及び乙第一号証証人宮崎繁樹の証言ならびに原告会社代表者本多清光本人の尋問の結果によれば、右(5)の約定、すなわち、被告が旧建物を鉄筋コンクリート造りの本建築としたときは、その建物のうち旧建物部分の位置及び床面積に相当する部分を原告に賃貸する旨の約定が存したことが認められ、被告会社代表者吉永達本人の尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、しかるに、昭和四四年四月一三日火災により原告の賃借した旧建物部分が使用困難となり、次いで被告が旧建物を取壊して鉄筋コンクリート造りの本件建物の建築に着手したことは当事者間に争いがないから、原告は前記約定により本件建物の旧建物部分に相当する部分である本件建物部分について賃借権を有するものと認めるのが相当であり、原告の請求中原告が賃借権を有することの確認を求める部分は理由がある。

被告は、旧建物部分の賃貸借は目的物の滅失により終了したと主張し、前記の約定もまた失効したかのような主張をするけれども、旧建物の滅失により旧建物部分の賃貸借自体が終了したからといって、賃貸借の目的建物を改築した場合に改築後の建物を賃貸する旨の約定までが当然終了すると解すべきいわれはない。なお、原本の存在、成立に争のない甲第三号証によれば、原告は昭和四四年九月二〇日被告より敷金二〇〇〇万円の返還を受けたことが認められるけれども、旧建物部分の敷金は、旧建物の滅失後も被告が預かるような約定が存しない限り、旧建物部分の賃貸借の終了と同時に返還されるべきものと解すべきであって、敷金の返還が右の結論に消長を及ぼさないこともいうまでもない。

三、しかし、前記甲第一号証及び乙第一号証によると、被告が本件建物部分を原告に賃貸する条件は旧建物部分の賃貸借と同一ではなく、その条件は原被告協議の上定めるものとされているのであり、そしてそのような場合当事者間に協議が調わないときでも、諸般の事情を考慮して客観的に相当と認められる条件で賃貸借が成立するものと解すべきであるが、旧建物は木造建物であるのに対し本件建物は鉄筋コンクリート造りであるから、賃料額等の条件は当然かなりの程度に変更さるべきであると解すべきところ、原告は単に旧建物部分の賃貸借と同一条件による賃貸借の成立を主張し、右条件による賃借権の確認を求めるのみであって、変更さるべき相当の条件についてはなんらの主張立証もなさないのであるから、原告の請求中賃借権の内容について確認を求める部分は失当たるを免れない。

四、次に、原告が本件建物部分について賃借権を有する以上、被告が原告に対し本件建物部分を引渡す義務あることも当然である。ただし、原告は旧建物部分の敷金と同額の二〇〇〇万円の敷金と引換えにその引渡を求めるのであって、敷金の額も前同様の見地から変更さるべきではあるが、被告において相当の敷金額の主張立証をなさない以上、原告主張の額の敷金との引換えに本件建物部分の引渡を求める原告の請求はそのまま認容すべきものと認める。

五、ところで、原告は本件建物の完成後本件建物部分の引渡に至るまで一日二万五一六七円の割合による遅延損害金の支払を求めるけれども、右の損害額を認めるに足りる証拠はないから、右損害金の請求は理由がない。なお、原告は旧建物部分を賃借していた当時の収益を基準として損害額を計算するが、本件建物部分を相当の条件で賃借した場合を前提とすべきである。

六、更に原告は本件建物部分の引渡不能の場合における代償請求として三五五〇万円の損害金の支払を求めるが、右請求についても損害額の立証がないから、右請求もまた棄却を免れない。

七、なお、原告の予備的請求は、原告が本件建物部分について賃借権を有しないことを前提とするものであるから、失当たるを免れない。

八、よって、原告の本訴請求は主文第一、二項の限度において正当と認めて認容し、その余の請求は失当として棄却すべきものと認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を適用し、なお、仮執行の宣言はこれを付することは相当でないと認めてその申立を却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 今村三郎)

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